第1章:ざっくり比較、NISAとiDeCoは何が違う?

「先輩、そろそろ投資を始めようと思うんですけど、NISAとiDeCo、どっちがいいですか?」

これは、職場の後輩からよく聞かれる定番となっている質問です。
たしかに、どちらも「資産運用(自分でお金を運用して増やす)」という点では共通しています。
運用で出た利益に税金がかからないのも同じです。

でも、元・税務担当の視点で見ると、この2つは全く別物と言っていいほど性質が違います。
まずは、公務員の私たちが知っておくべき特徴を、メリットとデメリットに分けて整理してみましょう。

1. 自由度が高い「NISA」

NISAは、運用益(配当や株の売買で稼いだ儲けなど)に税金がかからない、というシンプルな制度です。
銀行預金のように、いつでも現金化できます。

【メリット】
いつでも現金化できる
ことです。
車が必要になった、結婚資金にしたい、退職して新しいことを始めたい、などと思ったときに、いつでも解約して現金に戻せます。

【デメリット】
株の売買で損失が発生したときに損益通算(プラスの利益とマイナスの利益の相殺)ができないことです。
ただ、これはiDeCoでも同じです。

2. 節税が強力な「iDeCo」

iDeCoは、NISAと同じで、運用益に税金がかからないだけでなく、月々の掛金分が税金の控除対象になる…つまり、税金が安くなるという特徴があります。

【メリット】
掛金が所得税・住民税の減税になるのがiDeCoの最大のメリット
です。
公務員の私たちにとって、数少ない節税方法の一つですし、副業が制限されている私たちにとって、数少ない「確実な手取りアップ」の手段となります。
それに、NISAは投資という性質上、多少のリスク(損をする可能性)もありますが、iDeCoは「投資×節税」の性質上、iDeCoをして損をする可能性は限りなく低くなります。

【デメリット】
デメリットは2つあります。
1つは、原則として60歳までお金を引き出せないことです。
人生には想定外の出費がつきものですが、一度預けたら最後、どんなに困っても途中で解約することはできません。
2つめは、受取時に税金がかかることです。
これについては、後で詳しく説明します。

3. 結局、何が決定的に違うのか?

一番の違いは、「今すぐ使える自由」を取るか、「将来のための確実な節税」を取るか、という点です。

税務の窓口でいろいろな方の相談に乗ってきて感じたのは、公務員は「守り」に強い職業だということです。
だからこそ、自分の性格やライフプランに合わない方を選んでしまうと、後で「こんなはずじゃなかった」と後悔しやすいのも事実です。

どちらも魅力的な制度ですが、無理をして両方満額で始める必要はありません。


第2章:iDeCoの致命的な弱点

節税メリットが非常に大きいiDeCoですが、致命的な弱点があります。
これは、我々公務員にとっても相性が悪いです。
それは、出口である「受け取り時」の税金の話です。

1. 退職金との枠の奪い合い

それは、60歳以降に積み立てていたお金を受け取るときのことです。

iDeCoを一時金として受け取る場合、「退職所得控除」という非課税枠を使えます。
この控除は、通常の控除とは違って、かなり優遇された制度のため、まとまった金額を受け取ることになってもあまり税金がかからないように設計されています。
そして、この退職所得控除は、文字どおり退職金にかかる税金を減らしてくれるために設計されたものです。

問題となるのは、退職金とiDeCoの一時金は、同じ退職金として扱われることにあります。
実は、職場の退職金とiDeCoの受け取り時期が重なると、この非課税枠を2つで奪い合う形になってしまうんです。

  1. 職場の退職金で非課税枠を使い切ってしまう
  2. iDeCoの受け取り分に、予想外の税金がかかってしまう

公務員は、昔よりは少なくなったとはいえ、まだまだある程度まとまった退職金が貰えます。
そのため、退職金をもらった後にiDeCoを受け取ると、iDeCoにかかる税金がかなり高くなってしまう、という弱点があるのです。

2. 立ち回り次第では対応方法もあるが…

まぁ、うまく立ち回ることで、iDeCoにかかる税金を下げる方法はいくつかあります。
しかし、税金に詳しくない方がノーガードで60歳で退職金とiDeCoの受け取りをしてしまうと、それなりの税金を支払うハメになります。

iDeCoは素晴らしい制度ですが、私たち公務員にとっては「ただ積み立てればOK」という単純な話ではない、ということを頭の片隅に置いておいてくださいね。

詳しい「出口戦略」については、また別の記事でじっくりお話しする予定です。


第3章:万人受けするのは「NISA」だが…

NISAとiDeCo、どちらも魅力的な制度ですが、私個人としては、まずNISAを優先することをおすすめしています。

元・税務担当という肩書きからすると「節税重視のiDeCoじゃないの?」と意外に思われるかもしれません。
しかし、iDeCoは制度をある程度理解して行う上級者向け、という立ち位置から考えると、万人にオススメするとしたらNISAとなります。

理由1.iDeCoは出口戦略が難しい

第2章でもお話ししましたが、iDeCoは投資している(掛けている)ときは節税ができて最高ですが、いざ受け取るとなると戦略が必要になります。

一方、NISAは受け取るときに税金がかからないので、余計ないことを考えなくて済む、というところが初心者にはいいのかなと思います。

理由2.「いつでも辞められる」という最強の安心感

公務員として働いていると、良くも悪くも「定年まで勤め上げるのが当たり前」というレールが目の前に引かれています。
でも、人生は何が起こるか分かりません。

急に素敵な物件に出会ってマイホームが欲しくなるかもしれないし、お子さんの進路が変わってまとまった資金が必要になるかもしれません。
あるいは、私のように「公務員を退職して、自分の力で生きてみたい」という新しい夢が見つかることもあります。

そんなとき、NISAで積み立ててきたお金は、あなたの決断を後押ししてくれる自由への切符になります。

iDeCoは、個人の年金を積み立てている、という意味合いから60歳まで引き出すことはできません。
いつでも現金化できる、というNISAは定期預金のような感覚で気軽に使えるところがオススメする理由の一つとなります。

併用する、という選択肢

ただし、iDeCoはiDeCoにしかないメリットがあります。
これをうまく使いこなすことで、NISAよりも資産形成のスピードを速めることができますし、出口戦略を無風で切り抜けることもできます。

そのため、どちらも捨てがたい、という人は併用するという選択肢もあります。
月に3万円を投資に回せる人であれば、2万円をNISA、1万円をiDeCoで運用する、という感じです。

また、どちらを優先すべきかは、あなたの年齢や、これからどんな人生を歩みたいかによって決まります。(その人の考え方や環境によって変わります。)

次の章では、あなたがどちらのタイプに当てはまるか、具体的な判断基準を見ていきましょう。


第4章:プロ視点から考える優先順位(ケース別)

NISAかiDeCoか、どちらにするかの正解は、その人の今の状況によって180度変わります。

元・税務担当として数多くの家計を見てきた経験から、代表的なケースをいくつか挙げてみます。
自分に当てはまるものはどれか、チェックしてみてください。

case1:若手でまだ年収がそれほど高くない方はNISA

このステージにいる方は、NISAを優先した方が有利です。
理由は、収入が少ない方は所得税の税率が低いので、iDeCoの最大の武器である節税効果も、実はそれほど大きくないからです。

それよりも、結婚や住宅購入など、これから訪れる大きなライフイベントに備えて、いつでも引き出せる自由…つまり、NISAで運用しておく方が心の安定に繋がります。

case2:高所得なベテランの方はiDeCo

この場合は、迷わずiDeCoの節税効果をフル活用すべきです。 年収が上がるほど所得税率も高くなるため、iDeCoによる節税額も跳ね上がります。老後資金として割り切り、ガッチリと所得控除の恩恵を受けるのが、最も効率的な手取りアップ術になります。

case3:早期退職や独立を計画している方はiDeCo

私のように、定年まで勤めず、早めに退職して自由に生きたいと考えているなら、実はiDeCoが強力な味方になります。

早期退職をする場合、定年まで勤める人に比べて職場の退職金が少なくなります。
すると、第2章でお話しした退職金の非課税枠(退職所得控除)に余裕が生まれるんです。
枠が余っているなら、iDeCoの出口で税金を取られる心配が減り、現役時代の節税メリットだけを丸ごと享受できる、おいしいとこ取りが可能になります。

また、退職金を受け取った後、19年以上経過した後にiDeCoの一時金を受け取ることで、退職所得控除をもう一度使うことができる「19年ルール」という制度があります。
例えば、50歳で公務員を退職して退職金を受け取り、70歳でiDeCoを受け取る、という方法を使えば、どちらもほぼ非課税で乗り切ることができます。

case4:独身で、将来のライフプランが未定の人はNISA

「ずっと公務員でいるか分からないし、結婚するかも未定」
という方は、まずはNISAから始めるのが無難です。

iDeCoは一度始めると、原則として60歳まで資産がロックされます。
将来、海外に移住したり、大きくキャリアを変えたりする可能性があるなら、小回りの利くNISAで資産を育てつつ、状況が固まってからiDeCoを検討しても遅くはありません。

case5:夫婦ともに公務員の人は併用

共働きの公務員世帯なら、夫婦で役割分担をするのが最強の戦略です。

例えば、夫は節税メリットを最大化するためにiDeCoを満額で行い、妻は教育資金やレジャー費に備えてNISAを中心に積み立てる……といった形です。また、2人ともNISAとiDeCoを併用して運用する、という方法もアリです。

世帯全体で「節税」と「自由」のバランスを取ることで、突発的な支出にも安心して対応できるので、より強固な家計を築くことができます。


まとめ:自分だけの「お守り」をカスタマイズしよう

NISAとiDeCo、どちらが優れているかという議論に決着をつける必要はありません。
大切なのは、あなたの今の年齢、年収、そして、これからどう生きたいかという未来予想図に、どちらがフィットするかです。

公務員という安定した職業だからこそ、戦略次第で資産形成のスピードは劇的に変わります。

若いうちはNISAで自由を確保し、年収が上がってきたらiDeCoを足していく。
早期退職を見据えて、今のうちにiDeCoで節税の土台を作る。

そんな風に、自分専用の資産形成のレシピを作ってみませんか?

まずは自分の源泉徴収票を眺めて、今の税率や、将来の退職金のイメージを膨らませることから始めてみましょう。
分からないことがあれば、いつでも私の記事をヒントにしてくださいね。


参考文献

NISA特設ウェブサイト:金融庁

iDeCo公式サイト|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)

No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁